楠見 孝 (編) 教育心理学(教職教養講座 第8巻),
協同出版, 2018
「まえがき」より内容の紹介
本書は、将来教職を目指す人が、教育心理学の考え方を身につけ、将来、教育現場における教科指導や生徒指導などの実践に役立てることを目指している。また、教育に関わる心理学に関心を持ち、その理論と方法を学び、学習や研究を深めたい読者にも応える内容を目指している。
教育心理学は、教育活動に関わるテーマを心理学的に探究する学問であるとともに、心理学を教育分野へ応用し、より良い教育活動を実現するための学問である。そこで、本書では、教育心理学とその関連分野である認知心理学、社会心理学、学習科学、教育工学、遺伝学などにおける研究の進展と、内外の教育改革や新学習指導要領などの教育界の動向を踏まえて、これまでの教育心理学のテキストにはない内容も含めて解説をする。
冒頭の「学力と汎用的能力の形成(1章)」では、児童や生徒が21世紀中盤の社会で活躍するには、どのような能力を育成すれば良いのか、本書『教育心理学』のイントロダクションとなるように、各章と関連づけて説明する。
本書の序盤(2章から5章)では教育心理学の土台となる最新の基礎研究について解説をする。やや専門的で難しい内容も含まれるので、各章の「はじめに」と「おわりに」に示された執筆者から読者へのメッセージに、先に目を通すことを勧めたい。また、各章末には、推薦図書を掲げているので、あわせて読むことによって理解を深めることができる。「教育と遺伝(2章)」はで、心理学と遺伝学、神経科学の最新の成果を踏まえて、遺伝と環境が人の多様性などにどのように影響を及ぼすのかを解説する。個人差を踏まえた教育環境のデザインを考える土台となる内容である。つづく、「教育と個人差(3章))」では、パーソナリティの個人差が学業や職業の達成や創造性に及ぼす影響を、多くの追跡調査データに基づいて論じた上で、個人差を踏まえた教育的介入のありかたについて述べる。「記憶と知識(
4章)」では、認知心理学の知見に基づいて、知識の獲得と運用を支える記憶の仕組みについて解説する。「学習動機づけ(5章)」では、動機づけ研究の知見を解説した上で、学習者のやる気を高めるために、どのように教育実践に活用したら良いかを述べる。
中盤(6章から9章)では、学校教育に関わる新しいトピックを教育心理学の理論に基づいて解説する。「ICT・メディア活用(6章)」では、ICT・メディアの活用が学校現場でどのように拡大しているかを説明するとともに、その効果的な活用を心理学に基づいて説明する。「アクティブラーニング(7章)」では、その定義と新学習指導要領で重視される背景を解説した上で、大学教育から初等中等教育に、「深い学び」を重視する形でどのように広がったかを述べる。「教室内の相互作用(8章)」では、「深い学び」の手段として、教室における学習者と教師をめぐる対話を通した学びが重要であることを述べる。さらに、「探究的な学習・課題研究(9章)」では、その現状と今後、さらに、その学習活動を支える批判的思考とメタ認知について解説する。
終盤(10章から15章)では、学校教育における各教科「国語・読書教育(10章)」「社会科教育(11章)」「算数・数学教育(12章 )」「理科教育(13章)」「外国語教育(14章)」、そして「人権教育(15章)」における教育と学習について、実践例を取り上げながら、心理学の理論と知見に基づいて解説する。
章立て 執筆者 (出版当時の所属)
1. 21世紀型学力と思考力 楠見 孝 京都大学大学院教育学研究科教育認知心理学講座
2. 教育と遺伝
野村理朗 同上
3. 教育と個人差 高橋雄介 同上
4. 記憶と知識
齊藤 智 同上
5. 学習動機づけ 後藤崇志 滋賀県立大学
6. ICT・メディア活用 平岡斉士 熊本大学
7. アクティブラーニング
溝上慎一 京都大学大学院高等教育開発推進研究センター
8. 教室内の相互作用 河崎美保 静岡大学
9. 探究的な学習・課題研究 林 創 神戸大学
10. 国語・読書教育 米田英嗣 青山学院大学
11. 社会科教育 土屋智裕 洛陽総合高校
12. 算数・数学教育 服部貴大 浜松西高校中等部
13. 理科教育 坂本美紀 神戸大学
14. 外国語教育 Manalo,E. 教育認知心理学講座
15. 人権教育 栗田季佳 三重大学