2003625BBSレジュメ                           D1 平山るみ

Journal of Educational Psychology, 1977, Vol. 69, No. 2, 180-190

College Classroom Interactions and Critical Thinking 

                     Daryl G. Smith   

 

教育学者や理論家が,効果的な教授法について感心を寄せている.

学校の魅力を高めるために重要なことの1つとして,教育の質の向上がある.

これまでの研究結果は,報告できることに限界があったが,教育を改善するために,より詳細に教授のプロセスを研究する必要がある

 

Limitations of Past Research

       これまでの教授法研究では,講義や議論などの異なった教授法によって,テストによって測られるパフォーマンスに違いがでるか,ということを検討していた.

 →教授法による差はない,という結果もあった.

 →研究法の限界によって,重要な違いを見ることができていない可能性.

  個人特性やパフォーマンスの基準が敏感なものを扱った場合には,教授法の効果がみられる(e.g., Centra, 1972)

 

       別のアプローチとして,教授-学習過程をより正確に検討するということがある.

 →過去にはほとんど行われていない.

       教授過程を詳細に記述する方法によって,授業内での行動をより詳細に考察することができる.

 →質問パターン,学生のインタラクションのタイプ,学生の発話といった行動を検討できる.

 

・行動やプロセスと結果との関係性といった教育のより低いレベルでの調査を行うことで,重要な関係性を明らかにできると考えられる.

 

The Current Study

授業内でのプロセスと学習の結果(批判的思考)との関係性を調査する.

 

プロセス

       学習過程における学生の参加する活動に焦点を当てる.

       特に,教授の奨励や質問といった行動と,学生の参与やインタラクションといった行動を検討する.

       特に,4つの行動に分析の焦点を当てる.

1. 教授が,学生の考えを奨励したり,賞賛したり,使用したりする度合い.

2. 教授が質問をする頻度と,質問の性質.

3. 学生の授業への参与度や,参加への認知的レベル.

4. 学生同士でのインタラクションの度合い.

 

・これらの学生の関与する活動による批判的思考のレベルの変化を検討する.

 

 

方法

手続き

     大学での一般教養を教えており,さまざまな教授法を知っている15名の教授陣によって,秋学期に実施.(このうち3名は除外)

     始めの2週間・・・研究の趣旨を説明,参加を求める.テスト冊子を配布.
  学生への冊子・・・基礎的な対人関係態度質問紙,ワトソン-グレーザー批判的思考

テスト,個人情報・態度に関する質問紙,大学から学力テストの得点を得ることへの許可を求めるもの.

    教授への冊子・・・基礎的な対人関係態度質問紙,簡単な個人情報質問紙

     4回にわたり,授業をテープレコーダーで録音.1回目は2から3週目の間,4回目は15から16週目の間.Flanders Interaction Analysis Systemの修正版によってコード化.

     最終の2週間・・・再度,冊子を配布.

学生・・・ワトソン-グレーザー批判的思考テスト,行動・態度に関する質問紙.

教授・・・調査者や録音の教室でのインタラクションに与えた影響を受け取りたいかどうか,について.

 

被験者

     教授12名(女性2名,男性10名).

     最初と最後の冊子両方に回答した学生138名(女性75名,男性63名;同大学92%,他大学8%).

 

材料-プロセスと結果

     教師-学生のインタラクション(分析)

授業内に起こったことの記録について,教師と学生の行動という観点から分析.

Flanders’s Interaction Analysis systemによって言語行動を分析.

・・・「混乱・笑い」から「無言」を分離した,10から11カテゴリーに分類.

  「質問」と学生の会話のセッションを,認知的記憶,収束的,拡散的,回答の評価の4つの側面に細分.

     主な分析は次のとおり.

(a)   学生の考えを教師が,励まし,賞賛した.

(b)   質問

(c)    学生の会話セッションでの組み合わせ

 

     データ収集

録音から3秒ごとの言語行動をカテゴリー化.

各カテゴリーの頻度と割合を算出.

仲間同士でのインタラクションの場合,もう1人への回答を8から9カテゴリーに分類.

全ての生徒の会話との関係性でのインタラクションでの割合で測定.

最終的に,各クラスでのカテゴリーの割合の平均を算出.

 

     信頼性

内部評価者と外部評価者を設定することで信頼性を確認.

統計的信頼性として,CohenKを算出.→内部評価者では.95,外部評価者では.87

 

批判的思考(結果)

     ワトソン-グレーザー批判的思考テスト(Watson & Glaser, 1964)

批判的思考の5つの下位項目のテストで構成される.

(a)   推論

(b)   仮説の認識

(c)    演繹的推論

(d)   読解

(e)    議論の評価

 このうち,推論,読解,議論の評価を使用.事前・事後で実施.

 

     批判的思考に関連した活動の行動報告(Chickering, 1972)

Bloomの分類法に基づいて,次の6項目について報告させる.

1. 記憶

2. 理解

3. 応用

4. 分析

5. 統合

6. 評価

 

分析

ワトソン-グレーザーテストは,各テストとグループで標準化を行った.

分析単位は被験者やクラスごとに分析.

 

結果

プロセス

各変数の平均,中央値,最大値,最小値(Table 1

→質問,奨励,生徒の参加・・・平均20

 認知的記憶の質問が最も多く,より高次な質問は少ない.

収束的,拡散的な回答は比較的同等.評価的な回答は少ない.

最もクラス間の差が小さいのは,質問行為.

 

結果

各批判的思考尺度の平均値(Table 2).

→ワトソン-グレーザー批判的思考テストは,YよりもZが難しいことを支持する結果.

 →全ての得点を調整・・・事前得点は3.3点差,事後得点は.9点差.これらの平均より2.1点分Yが易しいということを考慮して得点調整.

 →事前・事後で得点の変化なし.

 

批判的思考への関与との関係

プロセスの変数(学生の参与,学生同士でのインタラクション,質問,拡散的および評価的質問,拡散的および評価的回答,奨励)と認知的結果(批判的思考と3つのより高い批判的思考に関する行動の変化)との関係性・・・r=.464, χ2(20)=44.26, p<.005

  クラス平均を用いた場合・・・r=.96, χ2(20)=28.7, p<.10

  同じプロセスの変数と6つの批判的思考に関する行動のセットとの相関
・・・r=1.00, χ2(30)=108.68, p<.001

個人成績の相関を検討(Table 3).

→学生の参与,学生同士でのインタラクション,奨励がいくつかの批判的思考に関する行動と相関(特に,分析と統合).

 高次レベルの質問と参与は,評価的行動と関係性あり.

 どの分析単位も,評価と分析的行動に相関あり.

 統合的行動は,より高いレベルの参与が相関あり.

 学生の参与,賞賛,学生同士のインタラクションと記憶との間に,負の相関.

 

プロセスでの尺度によって,高中低にレベル分け(拡散的・評価的参与では,高低に分類).

→学生の参与,奨励,学生同士のインタラクションと批判的思考得点の変化との関係 (Figure 1)

 6つの批判的思考に関する行動と学生の参与度との関係性 (Figure 2)

 →批判的思考に関する行動レベルの高低でパターンがみられる.

  ・・・高い批判的思考に関する行動はより高い賞賛,学生同士のインタラクション,学生の参与がある.

   プロセスの増加に伴って,記憶行動は減少する.

 

 

討論

 

     大学での教授法とその結果との関係性を探索的に検討した.

→多くの関係性が発見されたが,教授法の理解はまだ完全ではない.

 学生の学習プロセスへの活発な参加の重要性と,より詳細な調査方法の必要性を確認.

 

     批判的思考の平均得点に変化はなかった.

→期間が短かった.得点が上がるものもいれば,下がるものもいた.

 Figure 1より,参与度の低い者は,批判的思考が減退していた.

 ・・・知識獲得と記憶を強調しすぎたため,または積極的に研究に参加していなかった可能性.

 

     学生の参与,教授の奨励,学生同士のインタラクションが批判的思考と批判的思考に関わる行動の変化に正の関係性があった.

     学生の参与は,学生の満足のためだけではなく,認知的利点のためでもあると考えられる.

 

     個々の教授の目標や,専攻間の差といったことも,教授法の側面として考慮するべき.