日本教育心理学会第46回総会 研究委員会企画シンポジウム

 

「進路選択とキャリア発達」

 

10 月 10日 ( 日) 9:30−12:00 会場:富山大学

 

学会員以外の教育関係者にも公開し,終了しました。

参加頂いた方に感謝申し上げます。

録音をとった方がいましたら、ダビングさせて頂きたいので、下記の楠見までご連絡頂ければありがたく存じます。

 

 


企画者・司会者      野口裕之(名古屋大学)

http://www.educa.nagoya-u.ac.jp/index.html

 

企画者・指定討論者  楠見 孝 (京都大学)

http://www.educ.kyoto-u.ac.jp/cogpsy/kusumi/

 

話題提供者        耳塚寛明(お茶の水女子大学)

http://www.li.ocha.ac.jp/hss/edusci/mimizuka/index.htm

 

話題提供者        柳井晴夫 (大学入試センター)

http://www.dnc.ac.jp/dnc/kaihatsu.htm

 

話題提供者        金井壽宏 (神戸大学)

http://www.b.kobe-u.ac.jp/staff/index.htm


   本シンポジウムでは、社会学、教育心理学、経営学の視点から、高校・大学から社会人にいたる進路選択と生涯キャリア発達を検討する。とくに、社会の変動(入試制度、職業構造など)が、進路選択やキャリア発達に及ぼす影響、大学の専門分野や入社後の適応の規定要因、さらに、中高大における進路指導やキャリア設計の支援に焦点を当てて、理論やデータ、実践に基づいて問題提起をおこなう.そして、議論を通して、進路選択とキャリア発達研究および実践における今後の課題と解決の筋道、さらに教育心理学の役割について考えたい.


進路選択の社会学:いわゆる「高卒無業者」分析を事例に       

耳塚寛明(お茶の水女子大学)

 青少年の進路選択は、彼らの自由な選択の結果、ではない。進路選択を規制する社会学的要因として、@社会階層的背景、A教育システムの制度的構造、学校組織・文化、B職業構造などをあげることができる。彼らの進路「選択」は、階層的下位文化を背景とした、学力選抜や社会化過程の帰結、構造化された選択である。この意味で、青年期の進路選択は、すぐれて社会学的検討を要する現象としてとらえられねばならない。

 本報告では、@先行研究のおおまかなレビューによって進路選択をめぐる教育社会学的枠組みを整理した後、Aいわゆる「高卒無業者」の漸増という現象を事例分析の対象として設定して、現代日本社会における青年期の進路選択に関わる諸問題、インプリケーションを提示することにする。

 80年代までの青年たちは、高校卒業後直接実社会へ入るか、あるいは大学・短大・専門学校を経由して実社会へ入るかの、いずれかの移行(transition)パタンを経るものとして理解可能だった。ところが90年代以降、いわゆる「高卒無業者」層(進学も就職もしない層)が漸増し、現在では高卒者の1割強を占めるに至った。高卒無業者層の漸増は、企業と学校の実績関係を背景として維持されてきた学校から職業社会への円滑な移行システムに、揺らぎが生じたことを物語る。ここから第一に導かれる問題は、なにがその揺らぎをもたらしたのか=高卒無業者はなぜ漸増したのかであり、第二に、誰が高卒無業者として、学校と職業世界の狭間にさまよい出て行っているのかである。

 この報告では、前者の問題に関しては高卒労働市場の変容と教育システムの変容(教育理念、進路指導、高校生文化、教育選抜のメカニズムなど)によって高卒無業者の漸増を説明する。後者については、高卒後の進路選択(無業者を含む)と社会階層との関わりを検討する。それを踏まえて、@階層分化、再生産問題、A就職支援、進路指導などに与えるインプリケーションを提示することにする。         

耳塚寛明研究代表(2003)『高卒無業者の教育社会学的研究(2)』お茶の水女子大学教育社会学研究室 (平成13〜14年度科学研究費補助金報告書)119頁

耳塚寛明(2003)「分析 誰がフリーターになるのか」『世界』第710号 岩波書店 107-112頁

耳塚寛明・金子真理子・諸田裕子・山田哲也(2002)「先鋭化する学力の二極分化 学力の階層差をいかに小さくするか」『論座』2002年11月号 朝日新聞社 212-227頁

耳塚寛明研究代表(2000)『高卒無業者の教育社会学的研究』お茶の水女子大学教育社会学研究室(平成11〜12年度科学研究費補助金報告書) 114頁


どのような資質が大学の専門分野への適応を規定するか:大学生3万人の調査結果からの報告 

柳井晴夫(大学入試センター)

 大学の各専門分野で必要とされる「自己表現力」、「探究心」、「協調性」、「論理的思考力」、「読書力」、「持続力」、「判断力」、「発想力」等の27の資質、および20のスキル、大学学部を選んだ動機、学習意欲等を含む159項目の調査を平成13年11月に、全国国公私立大学20の学部系に所属する1−4年生約3万人に実施した(調査の詳細は『文献』参照)。上記の項目の他に、自分の所属する専門分野に関する適応度に関する次の7項目、@「自分の性格に合致」、A「自分の興味・関心に合致」、B「自分の能力を生かすことができる」、C「高校時代の得意科目を生かせる」、D「希望職業に就ける」、E「求める生き方に合致」、F「誇りを感じる」、G「再び選びなおせるとしたら現在と同一専門を選ぶ」についての合計点を求め、上位25%を「高適応群」、下位25%を「不適応群」と分類した。主要な結果は次の通りである。

1: 高適応群」に分類された学生の割合が高い学部は、医学系、芸術学系、体育学系、薬学系、教員養成学系の順で、経済・商学系が最も低かった。

2: 27の資質のうち「探究心」「協調性」「持続力」「社会福祉的態度」は高適応群に強く寄与した。

3: 高適応群の割合は女子が男子に比べ4%高く、設置形態別にみると、国、公、私立の順となった。

4: 学部系別に見ると、理・工学部は、「探究心」「持続力」「空間図形」「機械技術」が高適応群に寄与する資質であった。医・歯学部は、「生物への関心」「持続力」「社会福祉的態度」が、法・経学部は、「探究心」「持続力」「社会問題への関心」、文・社・教育・外国語学部系は「社会福祉的態度」「持続力」「知識・教養」「語学への関心」、また、人数は396名とやや少ないが、心理学に限定した場合、「人間心理」「語学への関心」「探究心」「社会福祉的態度」が適応に寄与する資質であった。

5:「高適応群」に含まれた学生ほど、「興味・関心との合致」「専門的知識の取得」「希望する職業の存在」によって進路を選択している反面、「低適応群」に含まれた人ほど、「学歴取得」「親や教師の勧め」といった要因で進路を選択していた。

柳井晴夫・椎名久美子・石井秀宗・野澤雄樹(2003) 大学生の学習意欲等に関する調査研究,『大学入試センター研究紀要』32号,57−126頁


School-to-work transitionにおける大学の学生に対してできること: 神戸大学経営学部経営管理の講義、学部金井ゼミでのエクササイズ、および金井研究室の調査        

金井壽宏(神戸大学)

 中学、高校の間から、いくつかの選択の先には仕事の世界があることを知ったほうがいいが、大学になってからも、適切な講義等で伝えられる重要なメッセージがある。(1)生涯キャリア発達のいくつかの基本学説について、(2)個人と組織のかかわり方(コミットメント)について、(3)キャリアを節目ではデザインするというアイデアについて、(4)3年生の終わり近くから始まる就職活動は、school-to-work transitionと呼ばれる、そのような節目のひとつであることについて、知ってもらうことは、これまでの受講生の感想文からして意味のあることのようであった。

 節目だけデザインすればいいのだが、その最初の節目が、就職であること、そして、入社後の適応は、節目の適応課題としてはけっこうたいへんなことで、リアリティ・ショックがあるほうがむしろ自然であることをあらかじめ知っていることが、逆に幻滅感を緩和する。リアリティ・ショックについては、金井研究室の研究者による調査があるので、それらにもふれたい。

 大教室での講義とは別個に、少人数の学部ゼミでは、毎年、ゼミ生全員に、エドガー・H.シャインの『キャリア・ダイナミクス』を読んでもらっている。その際、20年以上働いているひと、10年ぐらい働いているひとのふたりのインタビューをして、彼らのキャリア・アンカーを診断してもらい、診断結果について話し合った結果までレポートしてもらうことを要求している。仕事の世界について、generational linkを生み出す機会は、インタビューを受けた側(しばしば学生の親を含む)にとっても、generativityとの関連でも興味深い。

採用時のリアリズムという意味では、インターンシップも興味深いが、学生の間にそうとう程度鍛えられる経験として、ゼミでグループとして取り組む事例も紹介したい(高橋ゼミの豊田市、加護野ゼミのドンクでの活動)。

慶応大学では、渡辺直登さんによる慶応版RIASECのような存在がある。神戸大学では、大学生協と学生の自主的な動きから、ウェブ上の活動も生まれている。また、若くして仕事の世界でリーダーシップをとるひとの育成についても本年度より、ゼミで実験的試みをスタートしている。

これらの動きのうち、サブタイトルにあげた3点を中心に報告をおこなう予定。

金井壽宏(1998)「リーダーとマネジャー:リーダーシップの持論(素朴理論)と規範の探求」『国民経済雑誌』第177巻第4号、65-78ページ

  • 金井壽宏(1999)『経営組織』日本経済新聞社

  • 金井壽宏(2002a)『働くひとのためのキャリア・デザイン』PHP新書

    金井壽宏(2002b)『仕事で「一皮むける」:関経連「一皮むけた経験」に学ぶ』光文社新書

    金井壽宏・守島基博・高橋 潔(2002)『会社の元気は人事がつくる』日本経団連出版

    金井壽宏・高橋 潔(2004)『組織行動の考え方:ひとを活かし組織力を高める9つのキーコンセプト』、東洋経済新報社


    Takashi KUSUMI メールの宛先 kusumi(at)mbox.kudpc.kyoto-u.ac.jp
    Oct. 13,2004