アナロジー(類推) analogy

アナロジーは,未知の状況の問題解決において,既知の類似した状況を利用する認知活動である。アナロジーは,推論,説明,創造などさまざまな認知活動を支えている。したがって,人の認知過程の解明や人工知能の開発,さらに,教育,インターフェース設計などの応用のために,認知科学的研究がされている。

 アナロジーの認知プロセスは,四つの段階に分かれる。たとえば,われわれは,新奇な応用問題を解くときに,前に学習した類似した例題を思い出す。そして,例題の解法を対応づけて解く。さらに,対応づけが適切さかどうか,すなわち問題文の表面的な類似ではなく解法構造の類似性があるかを評価する。その結果は,同じ解法を適応できる問題として知識に貯える。以上の述べたように,第1段階では,われわれは,問題状況(ターゲット)を解決するために,過去の類似経験(ベース)を記憶から想起する。ベースの検索においては,表面的類似性だけでなく,構造的類似性も重要な手がかりとして働いている。第2段階では,ベースからターゲットへの知識の対応づけ(写像)によって,両者の特徴や構造を結びつける。ここで,ターゲットを解決するために不足する知識は,ベースから写像して推論する。第3段階は,対応づけ結果の評価である。アナロジーはベースとターゲットが部分的に対応している場合でも成立する柔軟性がある。しかし,両者が部分的対応の場合,ベースからターゲットに知識を写像して推論すると誤ることがある。そこで,表面的な類似性だけでなく,構造的類似性や目標に照らして,アナロジーの適切さを評価する必要がある。第4は,学習である。ベースを利用してターゲットを解決した経験は,両者の共通する関係,パターンやルールなどの帰納を通して,抽象的知識(スキーマ)として蓄積される。このようにアナロジーは,知識を拡張したり,形成する推論なので,広義の帰納の一つとして位置づけられる。また,アナロジーは,厳密な論理規則に基づく演繹に対して,類似性に基づく柔軟な推論としても位置づけられる。

 認知科学において,アナロジーが重視される背景には,いくつかの理由がある。

 第1に,アナロジーは知能において中心的な役割を果たしている。4項(比例)アナロジーは,一般知能を測定するための推論課題として,知能検査などに利用されてきた。たとえば,〈医者(A)と患者(B)の関係は,教師(C)と?の関係である〉。さらに,1970年代からは,比例アナロジー解決のプロセスや個人差が検討されてきた。一方,人工知能では,1960年代に,図形4項アナロジー課題を解決するために,規則を表現し,選択する記号処理モデルの開発が始まった。

 第2に,アナロジーは問題解決や物語理解を支えている。1970年代に,これらの心理実験やコンピューターシミュレーション研究が始まった。人やコンピューターにとっては,膨大な記憶から有効なベースを検索し,適切に対応づけることにアナロジーの難しさがあった。しかし,1990年代になると,(ターゲットとベースとの類似性,構造の対応,目標との合致といった)多重の制約によって,候補を絞り込んで,効率的検索と対応づけを行う理論や,そのコネクショニストモデルが提案されている。

 第3に,アナロジーは教育における伝達,学習,知識の獲得を支えている。相手の既有知識に基づくアナロジーは,理解しやすい説明を導く。たとえば,原子構造(ターゲット)を太陽系(ベース)のアナロジーで説明することによって,原子を回る電子の運動は惑星の周回運動に基づいて,推論できる。ここでアナロジーはメンタルモデルの構築や利用を助けている。さらに,アナロジーは,字義通りに表現しにくい暗黙知や技の伝達,婉曲的なコミュニケーション(例:寓話,心理療法)に用いることもある。また,発達研究においては,子どもの概念獲得を支えるアナロジーの働きが重視されている。たとえば,擬人化は,未知の対象に,人に関する豊富な知識を対応づけるアナロジーの働きである。

 第4に,アナロジーは創造機能を持つ。通常は連合しないものを結びつけ,そこから新たな機能や形態を創発する。たとえば,自動車のデザインにおいて,球アナロジーは,最小面積で最大容積を得る斬新なデザインを生む。また,認知工学においては,ユーザーフレンドリーなデザインのために,身近なアナロジーをインターフェース設計に利用している。たとえば,コンピューター・インターフェースのアナロジー(メタファー)には,デスクトップ,オフィス,秘書,会議室,都市などが用いられている。

 第5に,アナロジーは,メタファー(隠喩)の理解や生成を支えている。認知言語学者レイコフ G.Lakoff らは,たとえば,ターゲット〈人生〉にベース〈旅〉の知識構造を写像することによって,〈人生の分れ道,坂道,道連れ〉などのメタファーを生成して,人生を説明できる。しかし,ターゲットとベースとの対応は完全ではなく,むしろ両者の相互作用が,構造的な類似性や新しい意味を生み出す。

⇒記憶‖思考‖推理‖知識‖認知工学‖学習‖コネクショニズム‖比喩‖ヒューマンインターフェース                     楠見 孝

 

世界大百科事典(第2版)平凡社 1998