メタファー metaphor,figurative language

 広義のメタファーは,隠喩,直喩,提喩,換喩などの比喩表現全般を指す。狭義のメタファー(隠喩)は,主題とたとえる語を類似性,包含関係,イメージに基づいて結びつけた比喩である。比喩指標(例:のようだ,みたいだ)がない表現を隠喩,指標のある表現を直喩(simile)という。

 たとえば,特徴メタファー「愛は角砂糖だ」には,主題「愛」とたとえる語「角砂糖」の比較あるいは相互作用による類似特徴{甘い,,..}の発見がある。また,関係メタファー「眼は心の窓だ」には,4項類推における関係の類似性[眼:心::窓:(家)]の発見がある。さらに,概念メタファー「人生は旅だ」では,概念領域「旅」を「人生」に転移し,両者に構造的類似性(同型性)が成立する。そして,関連性,一貫性のある複数の比喩が生成できる(例:人生の分かれ道,道連れ)。類似の比喩としては,人の領域を他の領域に転移する擬人化(personification)(例:悲しそうな空),異なる感覚領域に意味を転移する共感覚的比喩(例:味覚→聴覚:甘い声)がある。

 メタファーは類包含陳述でもある。たとえば,「心は沼だ」は,主題「心」がたとえる語「沼」を典型例とする[どろどろしたもの]カテゴリーに包含されることを主張する。そして,特徴{どろどろした}が顕在化して主題の意味が変化する。一方,提喩(metonymy)は,[白いもの]カテゴリーで「雪」を指したり,「パン」で[食物]カテゴリーを指す。これはカテゴリーの階層関係に基づく慣用的比喩であり,意味変化はない。

 メタファーにはイメージスキーマが支える表現もある。たとえば,「喜び(悲しみ)に沸く(沈む)」は,身体経験や行為パタンを抽象化したイメージスキーマ(喜び(悲しみ)は上(下))を,感情領域へ写像した表現である。  

 比喩は,認知(言語学)研究だけではなく,コミュニケーション,創造性,インタフェース設計,臨床などにおいても研究されている。

→アイロニー,換喩,類推,類似性,カテゴリー,創造性

参考文献
芳賀純・子安増生(編)『メタファーの心理学』1990.
楠見孝『比喩の処理過程と意味構造』1995.
Lakoff, G. & Johnson, M.  Metaphors we live by,1980 (渡部昇一・楠瀬淳三・下谷和幸(訳)『レトリックと人生』1986
山梨正明 『比喩と理解』1988 

換喩 metonymy

 たとえる語で指示対象を表す慣用的比喩。隠喩が類似関係に依拠するのに対して,換喩は以下の隣接関係に依拠する。(a)顕著な対象で空間的隣接対象を指す:たとえば,部分で全体(赤ずきん(をかぶった女の子)),容器で内容物(ボトル→酒),場所や建物で機関(ワシントン,ホワイトハウス→合衆国政府)を示す。(b)顕著な事象で時間的隣接事象を指す:たとえば,結果で原因(涙を流す→泣く),原因で結果(ハンドルを握る→運転する),作者で著作(ピアジェ(の書いた著作)をよむ)を示す。

→メタファー,連想 

アイロニー irony

 反語。皮肉。発話の字義通りの意味とは,ふつう正反対の意味伝達を意図する修辞表現(レトリック)の一種。肯定的発話で否定的意味を意図することが多い。アイロニーは,話し手が,ある一般的見解を言及,反復した発話とみなせる(エコー理論)。それは,現実状況との差異を明確化して,見解に対する否定的態度(非難,嘲笑など)を聞き手に表明したものである(例:期待はずれの新人に対し,「本当に有能な(→無能な)新人だ」)。

→メタファー,談話,語用論,ユーモア

プロトタイプ prototype 

原型。カテゴリーの中心的な内的表象。カテゴリー事例の特徴情報を抽象化し,統合した単一表象。プロトタイプは,事例のもつ特徴の平均あるいは頻度,構造などの情報からなる。事例のカテゴリー化は,事例をカテゴリーのプロトタイプと比較して,最も類似性の高いカテゴリーの成員と判断する。プロトタイプ効果とは,カテゴリーの各成員の典型性評価において,典型から非典型までの段階構造が現れることをいう。

→カテゴリー,概念,典型性

命名 naming

ものを名づける行為。(1)対象物を認知的分析により同定し,(2)対象物に適切な語(名称)の選択する段階がある。語の選択は,基礎レベル・カテゴリーの語が選択されやすい。また,他の語の存在や,音韻的なアクセスのしにくさが命名速度を遅延させる。言語発達では,命名期(naming stage:1.5~2歳)において,幼児は,事物に名前があることを理解し,「これなに」と頻繁に尋ねることによって,語彙を増す。基礎レベルの語は,最初に命名でき,獲得される。

→ラベリング,概念,語彙,言語発達,カテゴリー,基礎レベル・カテゴリー

ラベリング labeling

 言語化。言語命名。事物を同定,記述するためにラベル(名称)をつける行為。ラベリングが言語媒介過程を通して学習,記憶に影響を及ぼすことをラベリング効果という。刺激対象へのラベリングの異同は,対象間の弁別性や類似性認知を変化させる。その結果,ラベリングは,概念学習や記憶を促進または妨害することがある。ただし,幼児はラベリングによる言語媒介を利用できないとする媒介欠如仮説もある。また,図形などを記銘(符号化)する際のラベリング(言語化)は,記憶内容がラベルに同化する方向へ変容する。

 認知発達において,10-14ヶ月児は,ラベリングによって事物への注意が喚起される。さらに2歳児くらいからは,事物-ラベルを結びつける認知的制約(事物全体仮定,分類学仮定,一事物一名称仮定)が,急速な語彙獲得を支えている。

→命名,言語的媒介過程,弁別学習,概念,語彙,言語獲得,言語発達,制約 

言語教育 langage education

 国語(母語,第一言語)教育,外国語(第二言語)教育の総称。言語の教授と学習の過程によって進む。言語教育の目的には,言語技能(四技能:聞く,話す,読む,書く)とそれを支える知識(発音,語彙,文法,文字など)の獲得と,言語を通しての理解,思考,表現,コミュニケーションなどの能力の育成,さらに教養,文化の獲得がある。近年,コミュニカティブ・アプローチでは,四技能を統合したコミュニケーション場面における実践的行動能力の育成を重視している。なお,言語(技術)教育を,文学教育と対比させることもある。

 言語教育への心理学的アプローチは,言語理解や表現(文字・単語認知,文章・談話理解,作文など)を支える技能や知識の構造と,その獲得過程である教授-学習,発達,および学習者をとりまく状況,社会,文化との相互作用の解明をめざしている。

→言語学習,心理言語学,言語の知覚,言語運用,文(章)理解,読み,書き行動,リテラシー

リテラシー literacy

母語の読み書き(識字)能力,文字メディアによるコミュニケーション能力。これは,生活,学習,職業などの文化的行為を支える基礎技能である。ユネスコでは「日常生活において,簡単な文章の読み書きができる人」を識字者,こうした能力を獲得していない15歳以上の者を非識字者(illiterate)と定義する。成人識字率(識字者比率)は,教育水準の国際比較の指標として位置づけられ,南北格差がある。しかし,識字率の国際比較は難しい。それは,(1)言語使用状況が異なる(たとえば,多言語地域では学校と家庭で使用言語が異なる),(2)調査法(テスト内容,サンプリング)が一定しないためである。

 ユネスコなどでは,非識字解消を「人間開発」プロジェクトとして,成人教育を中心に支援活動をしている。これは,家族識字,母親の識字が子どものリテラシー獲得のために,重要なためである。さらに,読み書き能力と計算能力を含む「機能的識字」の獲得を,職業訓練のための基礎学力として重視している。

 読み書き能力の発達は,3-4歳では,本を読む身ぶりやなぐり書きをするプレリテラシー(preliteracy:前読み書き活動)の段階,つづいて,仮名文字の音韻的,視覚的分析能力,視覚-運動協応などの認知的能力に支えられて,読み,つづいて書きが可能になる段階がくる。さらに,文字の活用技能を含むメタ言語的能力が重要になる。

 なお,リテラシーの概念は文字メディアだけでなく,映像(テレビ)の理解能力としての映像(テレビ)リテラシー,コンピュータ活用能力としてのコンピュータリテラシー,さらにこれらを統合した情報活用能力としての情報リテラシーに拡張されている。

天野清「幼児のことばと文字」『理解と表現の発達:講座 幼児の生活と教育4』1994
茂呂雄二「読み書き能力の発達」『発達心理学ハンドブック』1992
ユネスコ『世界教育白書1994』1995

→言語教育,読み,書き行動,言語発達,言語能力,コンピュータ教育

読書レディネス・テスト reading readiness test

読書開始のための認知発達の準備状態をはかるテスト。また,読書開始の準備指導,読書開始期における読書困難児の支援に用いる。その内容は,話し言葉から書き言葉への移行,読書開始を支える能力,お話をきく(記憶,構成課題),絵本を読む(絵の指示,事物の理解課題),文字を理解する(絵と文字の結合課題)などを含む。このテストは,小学校入学前後の幼児,児童に用いるが,それ以降の児童に対しては,読書(能)力テストがある。

大西誠一郎『読書レディネステスト・手引き』1971 金子書房

→言語教育,リテラシー,読書困難児

ジャーゴン jargon

[ I ]言語発達において,初(始)語期における有意味語獲得の前後に現れることば。生後1歳頃,反復喃語の減少とあいまって増加し,15カ月頃ピークを迎える。それ以降は,調音ができるようになるにつれて,有意味語になっていく。その内容は,非反復性の音節の組み合わせであり,大人と同様な言語音が混じる。聞き手には,おしゃべりのように聞こえるが,意味不明である。親の言語的働きかけへの応答や一人遊びの時に現われる。なお,精神病理学や失語学においては,患者の流暢だが意味不明の発話を指す。

[Ⅱ]特定の内集団で通用し,外集団には理解できない語彙,専門用語,隠語。

→言語発達,精神病理学,失語(症),内集団/外集団 

知識獲得(知識習得) knowledge acquisition 

 知識獲得は,主体が,物理的・社会的環境との相互作用によって,情報を長期記憶(意味記憶)内に貯蔵する過程である。知識獲得は量的増加とともに(再)構造化の過程である。発達における急速な知識獲得は,文法獲得は生得的制約,語彙獲得は認知的制約が働いている。学習における知識獲得は,経験の反復や経験からの帰納,観察学習,既有知識領域からの類推による転移などが支えている。

→知識,知識工学,知識表象,類推,転移,熟達,熟達化,観察学習,長期記憶,意味記憶,制約

内包的意味・外延的意味 connotative meaning・denotative meaning

 [ I ] 言語学,言語心理学においては, 外延的意味は,文脈や状況から独立した概念的,辞書的,明示的意味を指す。たとえば,「母」は,{女性,一世代上,直系,..}という意味特徴からなる。内包的意味は情緒的(affective),連想的,含意的,暗示的意味であり,言語文化,個人のイメージや経験に依拠する。たとえば,「母」に対して,{やさしい,愛情深い,...}等の意味特徴があるが,必要不可欠の特徴ではない。しかし,「母のような愛」といった比喩表現は内包的意味に依拠する。外延的意味は分類法,内包的意味はセマンティック・ディファレンシャル法,連想法で測定できる。

 [Ⅱ] 論理学,認知心理学においては,外延は,概念に包括される指示対象を指す。したがって,内包によって決定される。一方,内包は概念内容を指す。外延から共通性を帰納することによって決定される。たとえば,「哺乳類」の外延は{ヒト,ウマ,...}などの個々の事例,内包は{胎生,肺呼吸,...}などの定義的(defining)あるいは特徴的(charactaristic)特徴である。

→概念,意味,セマンティック・ディファレンシャル(法)